違法賭博での自称専門家による法律コンサル
ポーカー協会理事逮捕
皆さん、こんにちは!
東京都新宿区の風俗営業専門やたべ行政書士事務所です。
今週気になったのはこちらのニュース。
【容疑否認】日本ポーカー協会理事ら21人逮捕、チップを現金化し客に振り込みかhttps://t.co/dhGSUdb8t4
振込の名目は「競技者へのサポート費」となっていて、賭博行為を隠すための手口とみられている。この協会はポーカーをスポーツとして普及を目指すとしていた。 pic.twitter.com/InRdQxesA1
— ライブドアニュース (@livedoornews) May 31, 2023
客同士がポーカーをして残ったチップを店が現金化し、NPO法人「日本ポーカー協会」を経由して客の口座に振り込んでいたそうです。
報道によると(警察の発表によると)、「振込の名目は『競技者へのサポート費』となっていて、賭博行為を隠すための手口」として悪用されていたとのこと。
逮捕された被疑者の理事は、「賭博をやっているとは知りませんでした」と容疑を否認しているそうです。
ポーカーなどアミューズメントカジノの営業は、「射幸心をそそるおそれのある遊技に用いることができるものを備える店舗」(風営法2条1項五号)として風営許可が必要になります。
ただ、今回の摘発は風営法違反ではなく、常習賭博及び賭博場開張等図利(刑法186条)の疑いです。
違法性の意識は必要か
21人と大量の逮捕者を出したことから、今回のニュースにアミューズメントカジノ界隈は騒然となったようです。
協会の口座から振り込まれていたことから、日本ポーカー協会が組織的に関与し、賭博行為を隠蔽していたことが疑われています。
この点、本当に賭博と自覚していなかったのであれば、組織的関与とまで報道されてしまうのは心外かも知れません。
ただ、残念ながら日本の刑事裁判では「違法性の意識」は不要とされています。
100%違法性を意識した上で犯した行為でなくても罰せられるということです。
「法の不知は許さず」とするのが我が国刑法の大原則だからです。
刑法38条3項本文「法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない。」
これはある意味当然ですよね。
「知りませんでした」で許してもらえるなら、無許可営業にオンラインカジノと、何でもアリになってしまいます。
今回の場合、ゲーム後のチップを現金化し、協会口座から客の口座に入金していることを認識・認容していれば「組織的関与」として十分ということです。
加えて、本件では21名もの逮捕者を出しています。
当然ながら逮捕令状は、裁判官が確認し、証拠隠滅などの恐れがあるため発付を許可しています。
サポート費とは認められない疎明がなされたからこそ、国家権力による身体拘束が認められた訳です。
専門家の法律コンサル
今回のニュースを目にした際、パチンコの三店方式と何が違うのかと疑問に感じませんでしたか?
もちろん、換金の流れは異なりますが、「三店方式」「サポート費」も客寄せのために事業者側が主導して考案した点で共通しています。
同じサポート費を活用したアミューズメントカジノ店だけでなく、パチンコ以外で「三店方式」の換金スキームを応用させようと考えていた事業者などは不安になっているはずです。
そもそも、スキームというとカッコよく聞こえますが、要するにどうやって合法的に換金するか、言うなれば法の間隙を突く裏ワザです。
日本ポーカー協会もNPO法人として活動していた以上、換金システムについては専門家の法律チェックも受けてスキームを確立させたはずです。
ただ、協会側の専門家が公的機関に対して合法的に説明するのは当然で、今回のスキームの実態を明示的に説明していたかが問題です。
少なくとも、警察に対し実際の「サポート費」の金額レベル・頻度で支払い続けることをつまびらかに説明していないことは明らかでしょう。
警察に確認を取っていながら、大量逮捕といった事態は想定しえないからです。
元警察とか、自称専門家などの怪しげなコンサルに確認させるだけで誤魔化して進め、逮捕にまで至ってしまうのは風営法違反でもよくある事案です。
このようにグレーゾーンを攻めるビジネスでは、専門家の責任は極めて重大です。
戦前の下級審では弁護士の意見を信頼したことを理由として犯罪の成立を否定した裁判例もあるようですが、現代のインターネット社会では厳しいと思います。
「質問きてた!」「専門家が解説するよ!」なんてノリのユーチューバーが言ってたことを信じたなんて言い訳はまず通用しないでしょう。※アトム法律事務所のことではありません。
何らの国家資格すら持たずに「風営法」や「賭博罪」の成立について解説しているユーチューバーもいます。
以前、このブログで取り上げた「パチンコの三店方式」に関する解説もそうでした。
刑法犯罪である賭博罪の成否につき、司法権ではなく、行政権の解釈をもって「パチンコは賭博だけど合法」などと吹聴するのはナンセンスだと私は思っています。
隣人は静かに笑う
もちろん、国民の経済活動を萎縮させないよう、ビジネスを推進する立場の専門家が合法性を主張するのは結構なことだと思います。
ただ、中には無責任なアドバイスを行っている自称専門家も多く存在しています。
金融商品の投資案件で多いのですが、賭博絡みの事業投資でもこうした民間コンサルタントが存在します。
仮想通貨(暗号資産)、NFT、生成AIなど新しいテクノロジーに絡めて新規ビジネスが勃興する際、自称専門家によるアニマルスピリットも盛んになるものです。
言うまでもなく、今回のような法令違反による逮捕案件になったとき、こうした自称専門家のアドバイスを信じたなど言い訳として全く通用しません。
今回のニュースが流れた後、同様のアミューズメントカジノ店は臨時休業した店舗もあります。
それこそ「違法性の意識の可能性」があるからでしょうね。
他方で、嬉々として報道内容を情報拡散していたのがアニマルスピリット溢れる自称専門家です。
同じくグレーゾーンを攻めたビジネスモデルを考えるうえで、警察側の勘所を知れる生きたケーススタディになるからです。
何なら協会側被疑者らに徹底的に争ってもらって、より緩やかな判断を引き出してくれとまで言い出すでしょう。
もちろん、被疑者らのことを慮っているのではなく、自らのビジネスの違法性を案じているからです。
芸能人スキャンダル同様、こうしたニュースをほくそ笑んで見るのは同じ業界の隣人なのです。
そもそも、許可事業というのは、許可事業者として業法や各種法令を十分に把握・遵守して業として取り組むことを前提としています。
そのような事業者を逮捕・身柄拘束までするというのは、常習的に法律違反した状態で業務を行い悪質だと判断されたからだと理解するのが自然な解釈です。
もちろん、被疑者自身が本当に身の潔白を主張したいならすべきですが、「違法性の意識の可能性」があるなら素直に認めてやり直すべきだと私は思います。
必要以上に争うことは、起訴猶予や執行猶予付きのションベン刑で終わるところを再逮捕や勾留期間延長といった危険も生じさせ兼ねません。
少なくとも弁護士資格を有さない人間が、自らのビジネスの指標を得るために刑事裁判で争うことを推奨することなど私には到底理解できません。
専門家を自認する者であれば最低限の倫理観をもって取り組んでいきたいものです。
やたべ行政書士事務所は風俗営業に携わる皆さんをいつでも応援しています!
それでは、また!
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