平時の営業自粛要請は「ただのお願い」か?
東京都認証に申請殺到
皆さん、こんにちは!
東京都新宿区の風俗営業専門やたべ行政書士事務所です。
10月になりました。
緊急事態宣言・まん延防止等重点措置は解除されましたが、東京都では本日1日から24日まで「リバウンド防止措置期間」として特措法24条9項に基づいた要請を行っています。
- 東京都の認証を受けた飲食店では午後8時まで酒類提供を可能とし、営業時間を午後9時までとする
- 東京都の認証を受けていない飲食店では営業時間を午後8時までとし、酒類提供の自粛を要請する
※その他、イベント関連施設等への要請も行っていますので詳細はコチラをご参照ください。
事業者の皆さんにおかれては、東京都の要請に協力することの協力金支払いを不安に感じられている方が少なくないと思います。
【支給額(予定)】
中小事業者
一店舗当たり60万円から480万円
大企業
一店舗当たり上限480万円(一日の売上高減少額に基づき算出)
詳細はこちらの東京都の公式アナウンスをご確認ください。
飲食店が酒類提供を行いながら協力金の支給を受けるには東京都の認証を受ける必要があることから、現在、認証申請が殺到しているようです。
コロナ対策「認証」申請急増 飲食店、制限緩和見据え 基準に地域差 不公平感も :朝刊社会面からhttps://t.co/u0Uw0Zw97k
— 日経ヨクヨム (@4946nikkei) September 25, 2021
9月初旬から5倍近くまで申請数が跳ね上がり、都は対応に追われているようです。
こちらの認証、正式には「徹底点検 TOKYOサポート」リンク参照プロジェクトにおける「感染防止徹底点検済証」と呼ばれるものです。
本来、こちらの認証は特措法に基づいた「要請」ではなく、東京都独自の取り組みとして呼びかけていた「ただのお願い」でした。
ところが、10月以降は特措法という法律に基づく「要請」に切り替わったことで、政府財源の協力金支給がインセンティブとなって、結果的に認証制度の影響力が大きくなってしまいました。
前回の記事でも特措法24条9項の「要請」について触れましたが、その法的根拠の位置づけに関しては、事業者への影響が大きいと判断し、今回こうして別記事として投稿し直すことにしました。
要請を軽んずるリスク
緊急事態宣言解除後の都道府県知事による「要請」は、法律の根拠に基づかない「ただのお願い」と説明されている研究者がいらっしゃいました(以下赤字部分)
「判り易くいうと、行政の要請には①法に基づかない「ただのお願い」②法に基づく「ただのお願い」③法的強制力を持つ「お願い」があり、特措法上の作りを前提とすると都道府県による平時の営業自粛要請は①でしかないのだけど、政府は②どころか、あたかも③であるかのような発信をし続けてる」といった具合です。
反ワクチンの方がワクチン接種は法に基づかない「ただのお願い」と主張するのと同様で、こうした主義主張を行うこと自体は個人の自由であり、憲法21条1項による「表現の自由」でも保障されています。
ひろゆき風に表現するならこういったところでしょうか。
「それ、ただのお願いですよねw」
もっとも、SNSで行政批判してるだけなら問題ありませんが、実際にビジネスを行っている事業者が平時の営業自粛要請は①法に基づかない「ただのお願い」などと軽く考えるのは危険です。
理由は、酒類提供飲食店などの事業者にとってリスクがあるからです。
具体的には、冒頭で述べた協力金の支給などの場面でリスクが顕在化します。
軽く考えて適当な感染対策で申請したところ協力金支給要件を満たさないと判断されるだけでなく、受給後でも「完全な協力ではなかった」ことが発覚すると、支給取消になるだけでなく、最悪は刑事責任を問われる可能性も出てくるからです。
タイムラインで流れてきた時事ネタを思い付きで採りあげてSNSで自由勝手に「論議」するだけの研究者と違って、事業者にとっては制度の法律的根拠よりも「自分の店舗で協力金が支給されるかどうか」の方が遥かに重要性が高いはずです。
東京都の認証に法的強制力はありませんが、「要請」への協力を証明する上で都の認証は決定的に重要な機能を果たしています。
法的な強制力があろうがなかろうが、この「感染防止徹底点検済証」が無ければ酒類提供飲食店としては協力金が支給して貰えないのですから。
法に基づかない要請か
そもそも緊急事態宣言・まん延防止等重点措置解除後の「要請」は本当に①法に基づかない「ただのお願い」といえるのでしょうか。
東京都発表の資料では今回の「リバウンド防止措置期間」での要請が特措法24条9項に基づいて行われていることが繰り返し示されています。
要請の対象には事業者だけでなく、都民も含まれており、東京都民全ての行動制限にも関わる要請でもあるため、法律上の根拠を明確にしているのでしょう。
本件に関しては山尾議員がツイートしていたので紹介します。
今年2月1日内閣委で私の質問に対し西村大臣は『重点措置では緊急事態より制限が小さい時短要請までしかできず休業要請はできない』と答えています。だったら『平時では重点措置より制限が小さい消毒・換気など基本的な感染対策要請までしかできず時短要請はできない』となりますよね
— 山尾志桜里 (@ShioriYamao) September 29, 2021
平時に、法の解釈をねじまげて、国や都から行動規制される社会であってはならないのです。「お上の意向」や「社会の空気」に飲み込まれず、お店や個人が社会の一員として自分の考えでコロナ禍と向き合い、自由な意思で感染対策しましょうよ。そうした行動が結果として社会を強くするのだから!
— 山尾志桜里 (@ShioriYamao) September 29, 2021
この楊井人文さんの記事ぜひ読んで下さい。憲法学の横大道聡教授に取材をし、西村大臣と私の質疑もコンパクトにまとめてくれています。政府による脱法行為の既成事実化の片棒をかつがず、事実に基づいた問題提起を地道に継続しているメディアですhttps://t.co/LjR8FDyNXf
— 山尾志桜里 (@ShioriYamao) September 29, 2021
特措法24条9項の条文の趣旨として「要請」(24条9項)に営業時間短縮を含めないなら、①法に基づかない「ただのお願い」と言えるのかもしれません。
もっとも、山尾議員が言及していた答弁記録をみても、西村大臣とのやり取りで24条9項の「要請」の具体的内容に言及した記録はありません(リンク参照)
書面としての記録に残っているのは、あくまで「まん延防止等重点措置」期間と「緊急事態宣言措置」期間においての対応の比較であって、法的強制力を伴わない「平時」の要請に関する西村大臣の発言ではありません。
山尾議員、慶大教授、楊井弁護士らが述べる内容は、つまるところ、緊急事態宣言下での45条での使用制限等が例示されていることの反対解釈として、24条9項の「必要な協力の要請」には時短営業は含めるべきでないというひとつの【解釈】でしかありません。
24条9項の「要請」は、消毒や換気といった、強い行動制限を伴わない基本的な感染防止策の要請までと【解釈】すべきという、「べき論」の世界です。
なお、こうした「べき論」だけでは、逆にどうして24条9項の「要請」に「消毒や換気」は含めて解釈して良いかの説明にはなりません。
東京都が現在実施している第三者機関による「認証」は厳格なものなので、かかる「認証」を獲得するための「消毒や換気」だって事業者に負担を課すことには変わりないからです。
24条9項にすらあてはまらず、①法に基づかない「ただのお願い」と主張されてた研究者に至っては、さらに独自の【解釈】をされていました。
「例示がないと成立しない」ではないです。「入れ子状に要請内容が定められている限りにおいて、下位にあたる要請は上位にあたる要請の内容を上回ることは法律論上ない」です。
「その点に関しては、改正特措法の審議時の委員会質疑で国民民主党の山尾志桜里議員が同条文の各項要請の「内容」が入れ子関係であり、下位の要請内容が上位の要請内容を上回ることが出来ないことを確認しています。」
「寧ろ具体的に質疑がされています。委員会質疑内容は国会議事録に公示されているものですので、ご興味あればご自身でどうぞ」といった具合です。
私にはこの【解釈】は理解できませんし、私が調べた限りはそのような国会議事録は存在しません。それでもひとつだけ断言できることがあります。
それは、実際のビジネスに携わる事業者の立場として、行政庁にこの考え方で主張した場合に行政側がどういう反応を示すかです。
「それ、あなたの意見ですよねw」
と言われて終わるだけだろうということです。
ツイートでは自分にとって都合の悪いクソリプはブロックするなりスルーしておけば良いので、「法律論上ない」などと無責任に言い放っておけば不都合ありません。
発言を行った研究者のヤフー記事の記載内容から察すると、単に24条9項の存在を知らずに情報発信してしまった手前、内容の整合性を保って、俺ちゃんとわかってるんだぜ的なくだらない体面を保つために小難しい言い訳してるとしか私には思えません。
「今回政府は全国で発令されている緊急事態宣言と蔓延防止等重点措置を全面解除する方向でいるわけで、だとしたら東京都は何の法的権能をもって民間事業者に対する営業制限を行うのか?そこに法的根拠はない、ということになります。(ヤフー記事)」
特措法24条9項の「要請」規定の存在を知った上で、上記のような意見を述べているのであれば、まずは24条9項の「要請」に営業時間制限が含まれない解釈が成立することをヤフー記事内でも説明するのが自然なはずですが、そんな解釈論は一切ありませんでした。
少なくとも入れ子だの上位下位だのと条文文言の【解釈】をされている以上、いきなり平時の営業自粛要請は①法に基づかないというのは乱暴な表現だし、誤解を招くと思います。
後から自らが誤っていたことに気付いて訂正するというのは誰だってプライドが傷つきますし、誰だって辛いものでしょう。
本気で産業側の人間のことを考え、自分の発信した情報によって産業者の人間をミスリードを引き起こす可能性を感じられる良心があるなら撤回・訂正する勇気を持つべきと私は思いました。
【解釈】が正しかろうが、間違っていようが、今現段階で行政庁がどのような基準で判断を行っているかの方が事業者にとっては遥かに重要です。
行政庁の判断基準を無視して独自の【解釈】を事業者に推奨する理由など全くありません。
事業者の皆さんにおかれては、前提を理解した上で多様な【解釈】論に触れるのは良いと思いますが、よもやそれで行政も判断してくれるなどと誤解しないようにくれぐれも注意して頂きたいと思います。
ツイ廃が好き過ぎて草
ここで改めて山尾議員のツイートを引用させてください。
平時に、法の解釈をねじまげて、国や都から行動規制される社会であってはならないのです。「お上の意向」や「社会の空気」に飲み込まれず、お店や個人が社会の一員として自分の考えでコロナ禍と向き合い、自由な意思で感染対策しましょうよ。そうした行動が結果として社会を強くするのだから!
— 山尾志桜里 (@ShioriYamao) September 29, 2021
「法の解釈をねじまげて、国や都から行動規制される社会ではならない」「お店や個人が社会の一員として自分の考えでコロナ禍と向き合い、自由な意思で感染対策しましょうよ。そうした行動が結果として社会を強くするのだから!」との山尾議員のメッセージには私も100%賛成です。
ただ、【解釈】として改正特措法24条9項に当てはまらない可能性があることを理由として、現在、実際に都知事から出されている「要請」に従う必要がないと発信をするのは反対です。
もっとも、弁護士でもある山尾議員は当然ながら【事実】と【解釈】を明確に分けて発信されています。
今年2月1日内閣委で私の質問に対し西村大臣は『重点措置では緊急事態より制限が小さい時短要請までしかできず休業要請はできない』と答えています。だったら『平時では重点措置より制限が小さい消毒・換気など基本的な感染対策要請までしかできず時短要請はできない』となりますよね
— 山尾志桜里 (@ShioriYamao) September 29, 2021
【事実】山尾議員の質問に対し西村大臣が『重点措置では緊急事態より制限が小さい時短要請までしかできず休業要請はできない』と答弁したこと。
【解釈】『平時では重点措置より制限が小さい消毒・換気など基本的な感染対策要請までしかできず時短要請はできない』と山尾議員自身が考えたこと。
インターネット上では【事実】と【解釈】を混同し、あるいは自分の発信内容を正当化する目的で【事実】を捻じ曲げ、自分の【解釈】が正しいものであるかのように発信している研究者もいるのだということです。
繰り返しになりますが、西村大臣が24条9項の平時での「要請」で「消毒・換気など基本的な感染対策要請までしかできず時短要請はできない」などと答えた記録など存在しません。
西村大臣の日頃の記者会見で彼の問題意識やメッセージに触れたことが少しでもあれば、そんな内容を答えるはずがないことは誰にだって分かりきっています。
また、特措法に関して以下のような発信もされていたと思います。
「特措法が定める要請内容が緊急事態宣言→マンボウ→平時と「入れ子状」に規定されている限りにおいて、平時の「要請」は緊急事態宣言やマンボウ発令時よりも緩慢な内容に限られるというのは、法律の作り上明らかなので、現在各都道府県が行っている要請は特措法上に定めの外側にあるもの。」
「政府はその法的な枠組み論を避けながら、各都道府県知事の「要請」が特措法上の規定に基づく法令措置であるかのように社会に向かって発している。そして、何より100歩譲ってそれが法に基づく要請だと解釈したとしても、それは只の「お願い」以上でも以下でもないこともまた特措法上に定められている」
マンボウことまん延防止等重点措置は本年2021年2月の改正で施行された新しい制度です。
特措法24条9項の「要請」では強制力が弱いため、緊急事態宣言下でなくても知事の権限を強化するための制度として導入されました。
同じ時間短縮営業の要請が出されるのであれば、強制力が弱い平時の「要請」として出してもらった方が事業者としては助かるはずです。
平時「要請」であれば命令・過料といった法的強制力なく、事業者としての自由な意思決定の部分が広がるからです。
今回は東京都知事が「特措法に基づいて要請する」とはっきり明言しているのに対し、平時の営業自粛要請は法に基づかない「ただのお願い」と真に受けてしまうと、後々事業者にとって不利に働く危険があると個人的に考えて詳細に指摘させて貰いました。
私も最大限の注意を払いながら情報発信しておりますが、やはり誤まった情報や単なる知識・理解不足から事業者の皆さんに不正確な情報を伝えている場合もあると思います。
それでも、発信を続けているのは何としてもコロナ禍を生き抜き、「夜の街」復興支援・ナイトタイムエコノミー振興をライフワークにしているからです。
・・・と、ここまで記事を書いてきた自分自身についてひとつ気づいたことがありました。
「それ、あなたもツイ廃ですよねw」
やたべ行政書士事務所は風俗営業に携わる皆さんをいつでも応援しています!
それでは、また!
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