誤振込事件でIRカジノ反対派に神風は吹くか
実務家はかくあるべし
皆さん、こんにちは!
東京都新宿区の風俗営業専門やたべ行政書士事務所です。
この1週間、世間を騒がせていたのが山口県阿武町で起きた誤振込事件です。
人口約3,000人余りの山口県阿武町で、新型コロナで生活に困窮する世帯を対象とした国の給付金として町民463人に振り込むはずのものが、1人の口座に総額4,630万円誤振込されてしまった事件です。
誤振込を受けた町民は返還を拒み、挙句にはオンラインカジノで使い果たして返還出来ないと言い訳していました。
地方の事件ではありますが、全国的な注目を集めたことで警察も被疑者として逮捕・勾留するに至りました。
本日5/19放送「4630万円誤振込、24歳男 きのう逮捕」
山口県の阿武町で、新型コロナウイルスの給付金4630万円が誤って振り込まれた問題です。
きのう5/18、24歳の田口翔容疑者が『電子計算機使用詐欺の疑い』で逮捕されました。 pic.twitter.com/0BmNibuswr
— 羽鳥慎一モーニングショー (@morningshow_tv) May 19, 2022
返還困難と思えた給付金相当額に関しては、地元山口出身弁護士の機転を効かした対応が奏功し、給付金額の9割以上確保されているとのことです。
「まさか」の電話が突破口に 弁護士が明かす、誤入金9割回収の鍵https://t.co/76JQK5HqRk
誤入金問題で「9割回収」にこぎ着けた山口県阿武町。有効な手が打てず焦りが募る中、突破口となったのは相手から役場にかかってきた「電話」でした。回収までの舞台裏を町の弁護士が明かしました。 pic.twitter.com/DxhsWyPVCX
— 朝日新聞デジタル (@asahicom) May 26, 2022
いやはや、法律実務家とはこうありたいものですね。
こうした事件が発生した際、SNSなどのメディアでは一斉に専門家が事件の解説を行います。
時流に乗った事件を扱って情報発信すると拡散されやすく、専門家としての名前も売れ、自身の宣伝になるからです。
これは自戒を込めてでもありますが、私も風営法違反事件などは心のどこかでブログネタにならないかと無意識に探してしまいます。
もちろん、専門知識に基づいて事件を分かり易く解説することは価値のある情報発信だと思いますが、我々のような法律実務家であれば、山口県の弁護士のように本当の問題解決(給付金相当額を確保)を通じて名前を売ることが一番の理想であり、実務家の本分ではないでしょうか。
無意識に裾を踏むもの
また、マスコミだけでなく多くのインフルエンサーや専門家が一斉に本件に言及したことで、思わぬところに影響が出ているのではないかと気になったことがありました。
大阪IR誘致巡る住民投票 請求に必要な署名数上回るhttps://t.co/dyVx2Usqyg
署名活動は市民団体「カジノの是非は府民が決める 住民投票をもとめる会」(大阪市)が3月25日に開始し、5月25日まで呼び掛けていました。
— 毎日新聞 (@mainichi) May 26, 2022
昨日5/25に締め切られた大阪IRの賛否を問う住民投票に関する署名で、住民投票条例の制定を府に直接請求する法定数(約14万6000筆)を上回る15万7000筆が集まったそうです。
正直、これは驚きました。素人考えですが、ここ一週間での山口県阿武町での誤振込事件が影響しているとしか私には思えませんでした。
逮捕された町民の被疑者が言い訳として「オンラインカジノで全て使った」と説明したことで、「オンラインカジノ」に対する世間の注目が集まり、規制強化の必要性が叫ばれ始めています。
コロナ禍以降、日本でも海外オンラインカジノ利用者が増加していることはたびたび報道されていました。
海外オンラインカジノ、日本からアクセス急増 規制困難https://t.co/MqGkwgdlbg
— 日本経済新聞 電子版(日経電子版) (@nikkei) December 20, 2021
オンラインカジノの日本からの利用自体は違法ですから然るべき規制が議論されるのは当然なのですが、今回の事件ではカジノ沼に嵌まってしまったギャンブル中毒の若者というメッセージが発信されたことからIRカジノへの賛否に影響を与え始めているのです。
大阪府知事はオンラインカジノへの規制強化を訴えると同時に、オフラインカジノたるIRカジノでの経済振興を強調していました。
オンラインカジノ規制に関する法整備が追い付いていない点を問われた #吉村洋文
「カジノIRに反対する人が、なぜそこに目を向けないか分からない」と、全く別の話にすり替え、カジノIR宣伝&反対者批判🔥
民意を無視してでも、多額の血税でカジノ建設を強行する #大阪維新の会 府政をゆるさない💢 pic.twitter.com/kOUBxaLu9P— Shoji Kaoru 【元ヤクルトスワローズ(維新基準)】💙💛 (@Shoji_Kaoru) May 26, 2022
反対派の神風となるか
なるほど、オンラインであろうが、オフラインであろうが、中毒性を発症させるものである以上は規制すべきとするのが世間一般の感覚に近いというのも一理あります。
その意味では、大阪IRカジノ反対派にとって、山口県阿武町での今回の誤振込事件は「神風」が吹いたとも言えます。
世間一般の人々で、オンラインカジノは詳しく知らなくても、今回の事件に対して「カジノに嵌まったギャンブル中毒者が引き起こした事件」という共通認識を有するに至ったからです。
この1週間、Googleトレンドでも「オンラインカジノ」「ギャンブル中毒」などが検索ワードが急上昇しました。
こうした時流、トレンドに乗るような社会的事件は、時として政治的判断や立法的判断にも大きく影響を及ぼしてしまいます。
今回の事件の被疑者のように、都市部でギャンブル中毒となった者が限界集落へと逃れ、公金を使いつくして地方の平和な町村を滅茶苦茶にするなどという分かり易いストーリーで、オンラインカジノだけでなく、IRカジノ自体も再考しようとの論調が世間では高まってきているのかもしれません。
そして、こうした分かり易いストーリーで規制がなされてきたのが風俗営業産業の歴史でもあります。
酒・タバコ・ギャンブル・風俗・AV等の必要悪を法律で禁止すると悪は潜りその凶悪性を増して害悪をばら撒くようになる
なんでもかんでも相対的な価値観、清潔不潔、悪か正義かだけでは片付けられない
抑圧すれば反するエネルギーがより強くなる、世の中綺麗事だけで片付くようには出来てはいない— ただの田舎者 (@Tadano_HFya) May 26, 2022
こうした「世論」、ふんわりした世間一般のイメージや価値観こそが、風俗営業をはじめ飲食・娯楽・サービス業での規制を左右する最大のドライバーになるものです。
【「AV法案」当事者が集会で憤り】https://t.co/nCLl8sPC41
アダルトビデオ(AV)の出演被害救済に向けた法案を巡り、出演経験者やAV業界で働く人たちが26日、国会内で集会を開いた。国会議員らを前に「現場で働く人の声を無視した法案作りは問題だ」と当事者の話を聞くよう求める意見が相次いだ。
— Yahoo!ニュース (@YahooNewsTopics) May 26, 2022
私のような風営法の専門家としては、こうした問題が社会の注目を集め、議論が深まること自体は歓迎すべきことです。
一方で、瞬間風速的にSNSなどでの情報拡散や煽りが高まることで、大阪IRカジノ再考といった横浜の轍を踏んでしまわないことを願うばかりです。
もちろん、大阪府民が決定すべきことではありますが、そのインパクトは日本全国の風俗営業を含めたレジャー産業全体に及ぶはずです。
経済振興と然るべき規制のバランスある議論が尽くされることを願います。
やたべ行政書士事務所は風俗営業に携わる皆さんをいつでも応援しています!
それでは、また!
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