3.11に風俗営業のゲートウェイを考える
十年目の春を迎えて
皆さん、こんにちは!
東京都新宿区の風俗営業専門やたべ行政書士事務所です。
東日本大震災から10年目の春を迎えました。
10年ひと昔と言われますが、2万人以上もの死者・行方不明者を出した災害の記憶は忘れたくても忘れられません。
コロナ禍による外出自粛要請や時短営業により、現在の東京でも「夜の街」の灯りが消えかかっていますが、10年前の「夜の街」でも同様に灯りが消えそうになっていました。
震災による津波などで引き起こされた福島第一原子力発電所の事故による電力不足により、全国的な節電が呼びかけられ、日本全国の「夜の街」の灯りが一斉に消えたのが10年前の春でした。
ただ、「夜の街」から灯りが消えたのは原発事故によるのもだけではありませんでした。
震災のあった2011年を境に「夜の街」風俗営業、特にナイトクラブは旧風営法による締め付け、取締りが強化されました。
大阪のアメリカ村から始まったクラブの取り締まり強化は全国に拡大し、それまでの賑わいに溢れた「夜の街」風俗営業から灯りが次々に消えていきました。
今回は10年前のあの日から始まった、もうひとつの世界、パラレルワールドへの入り口であるゲートウェイを考えてみました。
やたべIWGP時代
皆さんは10年前は何をされていましたか?
私は当時も今と変わらず風俗営業専門の行政書士として活動していましたが、実は当時はオフィスを新宿ではなく池袋に置いていました。
ちょうど池袋警察署の目の前で、池袋駅西口を出たところに看板を構えて事務所を置いていました。
開業から10年は、現在と同じ新宿で事務所を構えておりましたが、10年目の節目に当たる2003年に西池袋に移転し、そこから更に10年経過後に再び新宿に戻ってきた経緯を辿っています。
震災と異なり、当時の社会風俗の記憶は風化してしまった方が少なくないと思いますが、2000年代というのは都市としての池袋は「夜の街」風俗営業として盛り上がりを魅せていました。
特に事務所が所在していた池袋西口公園を舞台とした人気小説・ドラマの『池袋ウエストゲートパーク』の影響からユースカルチャー・ストリートカルチャーの発信地として池袋の存在感が大きくなりました。
また、池袋bedを始めとした小箱がHip-Hopカルチャーを池袋の地域性にまで浸透させていました。
CLUB BEDからのお知らせ pic.twitter.com/LER3gwZOXi
— IKEBUKUROBED (@IKB_BED) December 30, 2018
さらに、西口駅至近のロマンス通りでは多くの接待飲食・深酒店が密集し、北口寄りでは性風俗店が所在していることからも、風俗営業を専門とする行政書士としては2000年代の池袋西口は絶対に外せない激熱エリアといっても過言ではなかったと思います。
都市のゲートウェイ
池袋に限らず、新宿、渋谷などの都市にはゲートウェイとしての機能があります。
鉄道・交通などのゲートウェイという意味ももちろんありますが、人と人、文化と文化が触れ合い、多様性が育まれる空間としての機能が都市のゲートウェイ機能の本質です。
そもそもゲートウェイ機能なる意味合いは、IT専門用語から来ており「異なるプロトコルを相互接続させること」と説明されています。
コンピュータ音痴の私が意訳させて貰えば、「異なる価値に触れて異化させてくれること」というところでしょうか。
決して小難しい文化論をしようという訳ではありません。
このゲートウェイなる言葉が多用されている最近の例としてゲートウェイドラッグという言葉を目にしたことがありませんか。
大麻規制議論などで多用されていますが、コカイン・ヘロイン・覚せい剤といった強い副作用や依存性のある薬物使用の入り口【ゲートウェイ】となる薬物や嗜好品として大麻やタバコ、酒などが指摘されるケースです。
ゲートウェイドラッグの賛否は別に、この考え方は風営法に通じるものがあると私は思っています。
「善良の風俗と清浄な風俗環境を保持」
「少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止」
「風俗営業の健全化」
これらは風営法の目的とされる風営法1条に記載された文言ですが、何をもって「善良」で「清浄」なのか、「健全」じゃないとはどういう状態かは、時代や社会の価値観によって大きく異なるものです。
ゲームセンター、ダンスクラブをはじめとした風俗営業許可業種は、「善良」「清浄」「健全」に反する世界への入り口【ゲートウェイ】に繋がるとの発想が風営法の根底に存在します。
こちらの画像は池袋から所変わってJR新宿駅東口のロータリーです。
椎名林檎さん『歌舞伎町の女王』で歌われた「♪~其処はあたしの庭、大遊戯場歌舞伎町」に繋がるゲートウェイですが、30年前ここはトルエンの販売場所として有名でした。
駅前ロータリーとして、車を周回させることが出来たため、口に手を当ててサインを出す売人に代金を支払うと、車を回した先の草むらに隠してある茶色いエナジードリンク瓶に入ったシンナーを受け渡されるといった行為が白昼堂々繰り広げられている場所でした。
余談ですが、ここで薬物取引の瓶として利用されたことが問題化し、企業としてもブランドの毀損に嫌気して、オロナミンCの蓋が再利用できないプルタブ式に切り替えられたと言われています。
都市ゲートウェイの場で、ゲートウェイドラッグのシンナーが販売されていたというあまり好ましくない例えですが、決して昭和の昔話をしたいのではありません。
30年後の現在の新宿東口ゲートウェイをみても本質は変わっていないと考えているからです。
駅前ロータリーから歌舞伎町方面に抜ける至近出口はアルタ口です。
ランドマーク的な建物として非常に通行量の多い出入口だけあって、ここでは常に携帯キャリアメーカーやクレジットカード会社の勧誘などが盛んに行われています。
2月のある日には、タバコメーカーの新規顧客獲得キャンペーンが行われていました。
ゲートウェイドラッグとしてタバコも例示されていることから、依存性のある(継続購買につながる)製品の販売活動の場としての新宿東口は都市ゲートウェイとして30年前と同じ役割を担っています。
異なるのは「善良」「清浄」「健全」といった社会規範や人々の価値観の方です。
トルエンと違って、現代の日本社会ではタバコは合法であり、なおかつIQOSのように受動喫煙の被害を減らす製品に対しては一定の社会評価もあると思います。
ただ、この社会評価というのは、時代や地域が変わると180度変わるのでクセモノです。
政財界の大物が自らの半生を語る日本経済新聞『私の履歴書』において、ホリプロ創業者・堀威夫さんが2月に連載を行っていました。
そこではこのような記述がありました。
『戦後しばらく、覚醒剤のヒロポンはふつうに薬局で売っていた。世の中変わるなあと思う。ヒロポンで徹夜の勉強ができるというので、真面目な学生ほど打っていた。バンドマンの間では「ヒロポンでいい演奏ができる」とされ、蔓延(まんえん)していた。』
いやはや、このくだりだけで時代や社会の価値観の何たるかを思い知らされますね(笑)
当然のことでしょうが、時代が異なり、地域が異なれば、社会規範や人々の価値観だって違います。
現代社会で当然のこととされる人権尊重や環境保全なども、あくまで人間社会の価値観で定められたものです。
ましてや、風営法の目的である「善良」「清浄」「健全」の解釈が変わることがあるのも当然なのかもしれません。
ゲートウェイとなる場で自分とは異なる価値観と触れる体験は、これまで当然と考えていた自らの考えを相対化させる契機を与えてくれます。
もっと分かりやすく言えばハッ!とする体験です。
何も考えず無批判に自動化した思考を異化させる体験とも言えるでしょう。
そのきっかけを与えてくれるのは他人かもしれないし、本・映画・音楽かも知れません。
もちろん、風俗営業をはじめ飲食・娯楽サービス業が与える顧客価値も人々に異化をもたらす体験となり得ます。
それに出会うことによって、それに出会う前までの自分には戻れなくなってしまう体験、そうした異化体験につながるのがゲートウェイの働きです。
異化をもたらす災害
私にとって10年前の東日本大震災はまさに異化をもたらすゲートウェイとなりました。
同時に、震災後に激化したダンスクラブに対する規制強化も2016年の風営法改正へのゲートウェイとなったと思います。
現在、コロナ禍に直面している風俗営業は、まさに異なる時代・異なる社会へのプロトコルが接続されようとするゲートウェイに対峙しているのです。
こうした時に自らを客観的に相対化、異化できずに旧来のプロトコルで押し通そうとしても新しい社会への扉は開かれません。
旧来のプロトコルで押し通すとは、具体的には法令違反を犯して営業を行うということです。
「政府の補助金だけでは従業員の生活を守れない、食っていけない!」
なるほど、お気持ちはよくわかります。
永遠に緊急事態宣言をし続けても余り困らない人たちが、緊急事態宣言をするかどうかを決めていて、失業リスクが無く、そもそも余り外出しなくて、夜8時以降に飲食店が開いてなくても困らない高齢者が緊急事態宣言を支持していて、その高齢者だけ大事にすれば当選できる一連の構造に停滞感を感じます。
— DAIBOUCHOU (@DAIBOUCHO) March 5, 2021
SNS上で国や政治家に対して批判しているだけならいいですが、実際に風俗営業を行っている事業者の皆さんは刑罰というペナルティを受けると言う事実を絶対に忘れないでください。
前述の薬物同様に、時代や社会によって風営法の「善良」「清浄」「健全」などの価値判断は揺らぐもので、時の政府の判断の是非をどうこう言ったところで目の前の自社の問題は解決しないことが殆どです。
ペナルティを受けるなんて割に合わないことは行わず、もっと生産的な活動を行える新しいプロトコルに切り替えて通信しましょう。
場合によっては手持ちのプロトコルがまったく使えない場合だってあるかもしれません。
でも、既に政府はそういったケースを想定した支援体制に大きく舵を切っています。
こちらは大規模な業態転換など、これまでの事業から大きく方向性を変えようと挑戦する事業者向けの補助金で補助上限額が6千万円です。
予算1兆1,485億円が確保されていることからも国の本気度が伝わってきます。
アフターコロナで実需が戻るかについて国がどう考えているかを判断する資料とも言えるでしょう。
やたべ行政書士事務所では扱っていない資金調達ですが、中小企業庁の下記サイトで資金調達に強い専門家を検索することもできます。
コロナ関連の資金調達は詐欺師まがいのコンサルタントも多く暗躍していますので、ご自身でしっかりと選別を行ってください。
10年前の東日本大震災の際、被災者の苦しみを目の当たりにした若きエンジニアが開発したひとつのサービスがその後の世界を大きく変えたことをご存知ですか?
災害がゲートウェイとなり、テクノロジーによるイノベーションを起こしたもっとも身近な事例をご紹介していますので、よろしければご覧ください。
目に見えないウイルスの闘いは苦しいですが、10年前の被災者のように全てを失っても立ち上がり再起した人々がいます。
希望を失わず、未来を信じて進みましょう。
未来への扉、ゲートウェイはあなたの目の前にあるはずです!
やたべ行政書士事務所は風俗営業に携わる皆さんをいつでも応援しています!
それでは、また!
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